「今言ったこと、できる?」10年通う占いの先生の口ぐせと、バラを1本買って帰った日|占い日記 #12

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ろうそくの灯る占いのテーブルで、タロットカードをはさんで向かい合う二人の手元の水彩画風イラスト

前回は、癌を疑った私に、先生が「がんじゃないと思うよ」と言ってくれた話を書きました。

▶ 「がんじゃないと思うよ」癌を疑った私に、占いの先生がかけた言葉|占い日記 #11

今回は、時間を少し戻します。
河原町の先生のところに通いはじめて、もう10年になります。
そのあいだに言われて、忘れられない言葉の話です。

忘れられない、と言っても、名言のような言葉ではありません。
先生が、何度も何度も私に聞いてくる、ひとつの質問です。

目次

先生の口ぐせは「今言ったこと、できる?」

先生と私の会話には、決まった流れがあります。

私が、悩んでいることを話す。
先生が、笑いながら聞く。
カードをめくって、「じゃあ、こうしてみたらどう?」とアドバイスをくれる。

ここまでは、どこの占いでもありそうな流れです。

先生が変わっているのは、そのあとです。
アドバイスを言い終えると、決まってこう聞いてくるのです。

「今言ったこと、できる?」

占い師が、相談した人に聞き返す。
最初は、ちょっと驚きました。
言いっぱなしにしない占い師もいるんだな、と思ったのを覚えています。

「奥さんに、こう言ってみたら?」

たとえば、妻のことを相談していたころ。

「家に帰ったら、奥さんにこんなこと言ってみたらどう?」
「こうやって、話しかけてみたら?」

先生は、そんなふうにアドバイスをくれます。
そして、少し間を置いて。

「今言ったこと、できる?」

仕事の相談でも同じです。

「自分の強みみたいなものを探して、それでやってみたらどう?」

そう言ったあとに、やっぱり聞いてきます。

「今言ったこと、できる?」

10年のあいだに、いったい何回聞かれたでしょう。
数えたことはありませんが、相談のたびに聞かれていた気がします。

「そんなの、できないよ」

そして、私の答えも、だいたい決まっています。

「そんなの、できないよ」

妻に対しては、恥ずかしい。
言いにくい。
今さらそんなこと言えるか、という気持ちがあります。

仕事のことになると、もっとひどい。
めんどくさい。
しんどい。
難しい。

よくもまあ、と自分でも思うくらい、言い訳が次から次へと出てきます。
アドバイスをもらいに来ているのに、です。

「強み」の話は、とくにそうでした。
強みを探してやってみたら、と言われても。
その強みが何なのかを、私は知りたいんです。

帰り道や、仕事の手が止まったときに、考えてみるんです。
自分の強みって、何だろう。
なんちゃってプログラマーの私に、人に言えるような強みなんてあるのか。
考えても考えても、結局見つかりません。

そして、次に先生のところへ行って言うのです。
「そんなの、わかんないよ」
先生とは、そんなやりとりばかりしていた気がします。

わかっていただけるでしょうか。
頭では「いいアドバイスだな」と思っているんです。
でも、口から出るのは「できない」のほうなんですよね。

「それでも、あなたはできるでしょう」

タロットカードをめくる占い師の手と、向かいで待つ男性の手元の水彩画風イラスト

そんな私の言い訳を、先生はいつも笑って聞いています。

怒ることはありません。
あきれた顔をすることもありません。
ひととおり言い訳を並べ終わるまで、笑いながら待っている。

そして、こう言うのです。

「それでも、あなたはできるでしょう」

……ずるいなあ、と思います。
できない理由を、あれだけ並べたのに。
全部聞いたうえで、「できるでしょう」と返してくるのですから。

「じゃあ、神様にお願いしようか」

強みがわからない。
そう言い続ける私に、先生が一度だけ、いつもと違うことを言ったことがあります。

「じゃあ、神様にお願いしようか」

先生にしては、珍しいことでした。
いつもは、カードを見ながら「こうしてみたら?」と言う人です。

「八坂神社で、神様に『チャンスをください』ってお願いしてみたら?」

八坂神社は、河原町から四条通をまっすぐ東へ歩いた突き当たりにあります。
占いの帰りに、寄れない距離ではありません。

これは、「できない」とは言いませんでした。
たしか、その日の帰り道だったと思います。
四条通を東へ歩いて、八坂神社でお参りをしました。

「チャンスをください」

それだけを、お願いしました。

それから、しばらくしてからのことです。
なんだか、仕事が順調に回りはじめた気がしました。
はっきり、ここから変わった、と言えるわけではありません。
でも、振り返ると、あのあたりに転換点があったような気がするのです。

占いは当たらなくていい、と書いてきた私ですが。
これは、すごく当たったことだと思っています。

バラを1本、買って帰った日

夕暮れの京都の路地を、バラを1本背中に隠して歩く男性の後ろ姿の水彩画風イラスト

妻の様子が変わってしまったころのことは、以前にも書きました。

▶ 「奥さんから電話あったんだけど?」妻の豹変で、仕事が止まった日|占い日記 #4

あのあとの家は、どうしようもない状態でした。
会話は、ほとんどありません。
同じ家にいるのに、話しかけるきっかけすら見つからない。
そんな毎日が続いていました。

その時期に、妻のことを相談していたときです。
これは、半分冗談だったと思います。
先生が、こう言いました。

「帰りに、バラの1本でも買って帰ったら?」

もちろん、私は「そんなの、できないよ」と言いました。
50代の男が、花屋でバラを1本。
想像しただけで、顔が熱くなります。

でも、気が向いたときに、何度か買って帰ったことがあります。

花屋の前を通りかかって、ふと先生の顔が浮かんだ日。
1本だけ包んでもらって、なるべく目立たないように持って帰りました。

家に着いて、妻に渡すと。

「これ、どうしたの?」

喜ぶというより、なんだか気持ち悪いものを見るような顔でした。
まあ、そうですよね。
口もきいていない夫が、急にバラを持って帰ってきたのですから。

でも、それはそれで、よかったのかもしれません。
「これ、どうしたの?」
気味悪がられたとしても、妻のほうから話しかけてくれた一言です。
少なくとも、何もしないよりは。

そういう話も、次に行ったときに先生に話しました。
先生は、いつもどおり笑って聞いていました。

ほめるわけでもなく、からかうわけでもなく。
ただ、笑って聞いてくれる。
そんな先生だから、話しやすいんだと思います。

やるか、やらないかは、自分で決める

正直に書くと、先生のアドバイスを全部やってきたわけではありません。

妻に対しても、できることはやるし、できないことはやっぱりできない。

先生には、「奥さんを、どこかに連れて行ってあげたら?」ともよく言われました。
これは、言われてもやらないことが多かった。
どこかに連れて行くというのは、やっぱり大変なんです。
行き先を決めて、予定を合わせて、当日の機嫌をうかがって。
会話もない時期に、それは荷が重すぎました。

バラ1本なら、帰り道に買える。
でも、どこかに連れて行くのは、そうはいかない。
私の「できる」と「できない」の境目は、そのくらいのところにあったのだと思います。

仕事でもそうです。
やりたいと思ったらやるし、そう思えなければやらない。

それは、あくまでもアドバイスだからです。

身勝手だとは思います。
でも、もし先生のアドバイスどおりに全部やっていたら、本当に全部うまくいったのか。
どうでしょう。
それは、わかりません。

やるか、やらないか。
それを決めるのは、やっぱり自分です。

先生の「今言ったこと、できる?」は、そのことを思い出させてくれる質問なのかもしれません。
アドバイスを渡して終わりにしない。
最後に、ボールをこちらに返してくる。

できると言うのも、できないと言うのも、自分。
バラを買うのも、買わないのも、自分です。

占いは、当たらなくていい。
道を選ぶのは、自分でいい。
私がこのサイトで書いてきたことを、先生は10年前から、あの一言で私に言い続けていたのかもしれません。

次回は、これまで出会ってきた占い師のタイプについて、考えてみたことを書こうと思います。

▶ 占いの館にいる占い師は、当たらないのか。館の占い師と独立した占い師を分けてみた|占い日記 #13

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