前回は、癌を疑った私に、先生が「がんじゃないと思うよ」と言ってくれた話を書きました。
▶ 「がんじゃないと思うよ」癌を疑った私に、占いの先生がかけた言葉|占い日記 #11
今回は、時間を少し戻します。
河原町の先生のところに通いはじめて、もう10年になります。
そのあいだに言われて、忘れられない言葉の話です。
忘れられない、と言っても、名言のような言葉ではありません。
先生が、何度も何度も私に聞いてくる、ひとつの質問です。
先生の口ぐせは「今言ったこと、できる?」
先生と私の会話には、決まった流れがあります。
私が、悩んでいることを話す。
先生が、笑いながら聞く。
カードをめくって、「じゃあ、こうしてみたらどう?」とアドバイスをくれる。
ここまでは、どこの占いでもありそうな流れです。
先生が変わっているのは、そのあとです。
アドバイスを言い終えると、決まってこう聞いてくるのです。
「今言ったこと、できる?」
占い師が、相談した人に聞き返す。
最初は、ちょっと驚きました。
言いっぱなしにしない占い師もいるんだな、と思ったのを覚えています。
「奥さんに、こう言ってみたら?」
たとえば、妻のことを相談していたころ。
「家に帰ったら、奥さんにこんなこと言ってみたらどう?」
「こうやって、話しかけてみたら?」
先生は、そんなふうにアドバイスをくれます。
そして、少し間を置いて。
「今言ったこと、できる?」
仕事の相談でも同じです。
「自分の強みみたいなものを探して、それでやってみたらどう?」
そう言ったあとに、やっぱり聞いてきます。
「今言ったこと、できる?」
10年のあいだに、いったい何回聞かれたでしょう。
数えたことはありませんが、相談のたびに聞かれていた気がします。
「そんなの、できないよ」
そして、私の答えも、だいたい決まっています。
「そんなの、できないよ」
妻に対しては、恥ずかしい。
言いにくい。
今さらそんなこと言えるか、という気持ちがあります。
仕事のことになると、もっとひどい。
めんどくさい。
しんどい。
難しい。
よくもまあ、と自分でも思うくらい、言い訳が次から次へと出てきます。
アドバイスをもらいに来ているのに、です。
「強み」の話は、とくにそうでした。
強みを探してやってみたら、と言われても。
その強みが何なのかを、私は知りたいんです。
帰り道や、仕事の手が止まったときに、考えてみるんです。
自分の強みって、何だろう。
なんちゃってプログラマーの私に、人に言えるような強みなんてあるのか。
考えても考えても、結局見つかりません。
そして、次に先生のところへ行って言うのです。
「そんなの、わかんないよ」
先生とは、そんなやりとりばかりしていた気がします。
わかっていただけるでしょうか。
頭では「いいアドバイスだな」と思っているんです。
でも、口から出るのは「できない」のほうなんですよね。
「それでも、あなたはできるでしょう」

そんな私の言い訳を、先生はいつも笑って聞いています。
怒ることはありません。
あきれた顔をすることもありません。
ひととおり言い訳を並べ終わるまで、笑いながら待っている。
そして、こう言うのです。
「それでも、あなたはできるでしょう」
……ずるいなあ、と思います。
できない理由を、あれだけ並べたのに。
全部聞いたうえで、「できるでしょう」と返してくるのですから。
「じゃあ、神様にお願いしようか」
強みがわからない。
そう言い続ける私に、先生が一度だけ、いつもと違うことを言ったことがあります。
「じゃあ、神様にお願いしようか」
先生にしては、珍しいことでした。
いつもは、カードを見ながら「こうしてみたら?」と言う人です。
「八坂神社で、神様に『チャンスをください』ってお願いしてみたら?」
八坂神社は、河原町から四条通をまっすぐ東へ歩いた突き当たりにあります。
占いの帰りに、寄れない距離ではありません。
これは、「できない」とは言いませんでした。
たしか、その日の帰り道だったと思います。
四条通を東へ歩いて、八坂神社でお参りをしました。
「チャンスをください」
それだけを、お願いしました。
それから、しばらくしてからのことです。
なんだか、仕事が順調に回りはじめた気がしました。
はっきり、ここから変わった、と言えるわけではありません。
でも、振り返ると、あのあたりに転換点があったような気がするのです。
占いは当たらなくていい、と書いてきた私ですが。
これは、すごく当たったことだと思っています。
バラを1本、買って帰った日

妻の様子が変わってしまったころのことは、以前にも書きました。
▶ 「奥さんから電話あったんだけど?」妻の豹変で、仕事が止まった日|占い日記 #4
あのあとの家は、どうしようもない状態でした。
会話は、ほとんどありません。
同じ家にいるのに、話しかけるきっかけすら見つからない。
そんな毎日が続いていました。
その時期に、妻のことを相談していたときです。
これは、半分冗談だったと思います。
先生が、こう言いました。
「帰りに、バラの1本でも買って帰ったら?」
もちろん、私は「そんなの、できないよ」と言いました。
50代の男が、花屋でバラを1本。
想像しただけで、顔が熱くなります。
でも、気が向いたときに、何度か買って帰ったことがあります。
花屋の前を通りかかって、ふと先生の顔が浮かんだ日。
1本だけ包んでもらって、なるべく目立たないように持って帰りました。
家に着いて、妻に渡すと。
「これ、どうしたの?」
喜ぶというより、なんだか気持ち悪いものを見るような顔でした。
まあ、そうですよね。
口もきいていない夫が、急にバラを持って帰ってきたのですから。
でも、それはそれで、よかったのかもしれません。
「これ、どうしたの?」
気味悪がられたとしても、妻のほうから話しかけてくれた一言です。
少なくとも、何もしないよりは。
そういう話も、次に行ったときに先生に話しました。
先生は、いつもどおり笑って聞いていました。
ほめるわけでもなく、からかうわけでもなく。
ただ、笑って聞いてくれる。
そんな先生だから、話しやすいんだと思います。
やるか、やらないかは、自分で決める
正直に書くと、先生のアドバイスを全部やってきたわけではありません。
妻に対しても、できることはやるし、できないことはやっぱりできない。
先生には、「奥さんを、どこかに連れて行ってあげたら?」ともよく言われました。
これは、言われてもやらないことが多かった。
どこかに連れて行くというのは、やっぱり大変なんです。
行き先を決めて、予定を合わせて、当日の機嫌をうかがって。
会話もない時期に、それは荷が重すぎました。
バラ1本なら、帰り道に買える。
でも、どこかに連れて行くのは、そうはいかない。
私の「できる」と「できない」の境目は、そのくらいのところにあったのだと思います。
仕事でもそうです。
やりたいと思ったらやるし、そう思えなければやらない。
それは、あくまでもアドバイスだからです。
身勝手だとは思います。
でも、もし先生のアドバイスどおりに全部やっていたら、本当に全部うまくいったのか。
どうでしょう。
それは、わかりません。
やるか、やらないか。
それを決めるのは、やっぱり自分です。
先生の「今言ったこと、できる?」は、そのことを思い出させてくれる質問なのかもしれません。
アドバイスを渡して終わりにしない。
最後に、ボールをこちらに返してくる。
できると言うのも、できないと言うのも、自分。
バラを買うのも、買わないのも、自分です。
占いは、当たらなくていい。
道を選ぶのは、自分でいい。
私がこのサイトで書いてきたことを、先生は10年前から、あの一言で私に言い続けていたのかもしれません。
次回は、これまで出会ってきた占い師のタイプについて、考えてみたことを書こうと思います。








